報告書・資料

2014年活動報告

外国人被災者支援プロジェクト
ふくしま移住女性支援
2014年報告書

2014 Annual report in English is here

◆プロジェクト名◆

ふくしま移住女性エンパワメント・プロジェクト2014

◆実施地域◆

福島県福島市、白河市、須賀川市、いわき市ほか

◆実施団体◆

◇福島移住女性支援ネットワーク(EIWAN)
◇外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)

◆プロジェクトの目標◆

これまでの活動実績(2011年9月~2013年)とネットワークを活かして、福島県内の外国にルーツを持つ移住女性を対象に、経済的自立と諸問題の自己解決を可能とする能力を獲得するための教育/支援活動を、地元市民との協働によって展開する

◆プロジェクトの実施項目◆

(1)人権としての日本語識字学習の支援
(2)労働・生活・DV・在留問題の相談と同行支援
(3)放射能被害に関する情報提供と相談
(4)ジェンダー問題に関する研修
(5)移住女性の子どもに対する教育支援
(6)移住女性とその子どもの保養
(7)地元市民と移住女性の協働をめざす関係づくり――サポーター養成、多文化防災
(8)移住女性「ふくしまMy Story」記録化
(9)情報発信

1.被災4年後の福島

◆被災者の今

○2011年3月11日、東日本を襲った大地震と津波、福島第一原子力発電所の崩壊事故によって、住民は甚大な被害を受けた。死者15,891人、震災関連死者3,194人、行方不明者2,584人に上る(2015年3月10日現在)。そのうち外国人の死者は33人(中国12、韓国・朝鮮13、フィリピン4、アメリカ2、カナダ1、パキスタン1)である。
○さらに福島第一原発の爆発によって、福島県に住む多くの人びとが強制避難/自主避難を余儀なくされた。4年後の現在も、自宅に帰還できない福島県民は、県内避難者と県外避難者あわせて135,854人となる。このうち約80,000人が、福島第一原発周辺の帰還困難区域/居住制限区域/避難指示解除準備区域からの避難住民である。
○このように遅々として進まない復興の中で、外国人被災者は生活再建の道をさらに阻まれている。

◆外国人被災者の困難

○これまで日本政府は、日本で生活する外国人、約200万人の存在を無視して、各種の社会制度を作ってきた。そして、外国人の出入国・在留管理制度をはじめ日本の諸制度は、外国人が日本社会の中で暮らしている過酷な現実を直視することなく運用されてきた。
○このような「日本人中心主義」の認識は、未曽有の大震災に対する海外からの多大な緊急支援を受けても、修正されることなく維持されている。
○政府や地方自治体が行なっている被災者支援事業において、国籍による排除や制限はない。
○しかし、外国人被災者の多くは、「言葉の壁」「心の壁」によって、支援情報を得ること、それを利用することが、きわめて困難なのである。

◆広く点在する移住女性

○福島県に住む外国人は9,502人。在日韓国朝鮮人や留学生・技能実習生を除くと、そのほとんどが移住女性である。彼女たちは1980年代後半以降、日本人との国際結婚で東北地方の農村・漁村・中小都市部へ移住して来た中国人・フィリピン人・韓国人女性たちである。そのため、外国人住民のなかの男女比を見ると、福島県では「女性100人」に対して、「男性50人」となり、女性の割合が圧倒している。
○しかも、福島県の移住女性たちは、小さな町・村にも広く点在している。<表1>

2.プログラムの目的と実施内容

◆移住女性の日本語力

○移住女性たちは日本に来て10年、あるいは20年以上になる。しかし彼女たちの多くは、日本語での日常会話ができても、日本語を読むことと、書くことは、困難である。
○外キ協が2012~2013年、地元の自治体・研究者・NPOと共同で実施した宮城県石巻市と気仙沼市での外国人被災者実態調査では、日本語での会話は「まったく問題がない/あまり問題はない」と回答した移住女性は51%になるが、日本語を読むことについては36%、日本語を書くこと24%と、下降していく。
*石巻市調査と気仙沼市調査の詳細は、http://gaikikyo.jp/shinsai/
○移民を受け入れている諸外国(たとえばアメリカやカナダ、オーストラリア、デンマーク、ドイツ、ベルギー、フランス、オランダなど)では、政府の社会統合プログラムとして語学研修制度が実施されている。
○しかし日本の場合、このような制度はない。そのため、地域の国際交流協会や市民ボランティアによる日本語教室が行なわれているだけである。

◆放射能被害の情報を知ることの困難さ

○被災地では、福島第一原発の爆発による放射能汚染に対する除染作業が終わっていない。福島県内の除染作業は、住宅が約40%、道路は約30%が終了しただけである。
○その中で移住女性は、放射能汚染に関する情報を強く求めている(石巻・気仙沼調査で82%)。さらに、子どもを持つ移住女性の場合、放射能汚染が子どもの健康に及ぼす影響を深刻に考えざるをえない。ところが、日本語が十分ではない移住女性が、放射能汚染をめぐる現在の状況を理解し判断することは、あまりにも困難である。たとえば、福島第一原発から100キロ以上も離れている宮城県石巻市で、日本語ではなく母語による放射線の情報を求める移住女性が44%に上ることは、彼女たちの困難さを示している。
○福島県国際交流協会(FIA)が2012年、県内の外国人100人に対する調査によると、「原発事故」という言葉を震災前から知っていた外国人は40%であり、震災後に知った外国人は50%に上る。「放射線」という言葉についても、震災前から知っていた外国人は43%、震災後に知った外国人は42%となる。さらに、「原発事故」「放射線」を現在も知らない、と回答した外国人が、10%と15%にもなる(『外国出身住民にとっての東日本大震災・原発事故 FIA活動の記録』2013年)。これは、言葉の意味を知らないというより、原発事故の全容も、放射線被曝の現状も分からない、と回答したからであろう。
○このように外国人は、放射能汚染について正確な情報を知りたくても、知ることが困難である中で、不安に駆りたてられる。福島県の外国人被災者、とくに移住女性が置かれている状況は、きわめて厳しい。

◆限られた社会的資源

○これまで東北地方には、移住女性とその子どもの人権問題に取り組むNGOや教会は少なかった。それは震災後も同様であり、2013年、政府の予算で「被災地の外国語ホットライン」が設置されたばかりである。
○このような中で、私たちは下記のプログラムを2014年、試行錯誤を繰り返しながら進めていった。

(1)日本語識字学習の支援

○このプログラムは、日本語が不自由なために家庭と地域社会において孤立せざるをえなかった移住女性のコミュニケーション能力を高めると共に、就職機会の拡大と、人権と生活に関わる問題解決能力を獲得するために必要な日本語運用能力を身につけること、すなわち人権としての日本語学習を支援することを目的とする。
○福島市と白河市の日本語教室では、「ハワクカマイ(手をつなごう)福島」と「ハワクカマイ白河」に集まるフィリピン人女性を対象として、2013年から毎月2回、地元市民のボランティアがマンツーマンで日本語学習を支援している。
○白河市の場合、かつて外国人のための日本語教室があった。しかしその後、休止していたところ、2013年4月、EIWANが主催した改定入管法の学習会に集まったフィリピン人女性たちから強い要望があって、日本語教室を開設した。そして今、地元市民が運営している。
○福島市の場合は、すでにいくつかの日本語教室が運営されているが、中国人や韓国人のように漢字圏出身の移住女性が日本語を獲得していく進度と、フィリピン人のような非漢字圏出身の移住女性の進度は大きく異なるため、彼女たちを対象とする「識字教室」が必要とされたからである。
○福島教室と白河教室では、移住女性の具体的なニーズに合わせた目標設定と学習機会を提供している。たとえば「非正規雇用の職から、工場マネージャーや公的機関での通訳になりたい」、「介護施設などの勤務先で報告書を正確に書けるようになりたい」など、それぞれのニーズに合わせて日本語能力試験5級~2級の資格取得をめざし、年2回(7月と12月)の受験で21人が受験し、15人が合格した。
○今後の課題は、学習者数の安定と日本語サポーターの定着である。

(2)相談と同行支援

○このプログラムは、労働・生活・DV・在留問題についてこれまで支援情報と支援手段から遮断されてきた移住女性が、適切な助言と同行支援を通して具体的な解決方法が得られるようにすることを目的とする。
○毎月交互に開かれる会議(運営会議/拡大運営会議/ケース会議)では、運営委員6人と協力委員7人それぞれが得た情報を共有し、問題点を整理していった。
○私たちが福島サロン・白河サロンや保養プログラムで接する移住女性たちとの会話や、電話などの相談事例から、中国人、フィリピン人、韓国人それぞれのコミュニティによって、支援情報や放射能被害情報に偏りがあること、また農村地帯では、地域の支援団体や同国出身者のネットワークに属していない移住女性が相当数いることが、課題として浮かび上がってきた。

《移住女性の相談事例》
○2011年3月11日から1カ月の間に、福島県の住民のうち約1万人が避難した距離は平均273キロ、避難回数は約4回に及んでいた(『朝日新聞』2014年7月13日)。ある移住女性の場合、福島第一原発から20キロにある町に住んでいた。2011年3月、原発の爆発によって、彼女は日本人の夫と幼児2人とともに郡山市に逃げ、さらに新潟県に避難した。同年秋、彼女はその避難先で第三子を出産。翌年2012年春、一家は福島県に戻り、仮設住宅に住む。しかし夫は働かず、東京電力の補償金を遊興に使い、彼女をののしる。それが2年間も続くが、彼女は3人の子どもを連れて離婚し自立することを決意できずにいる。私たちは、彼女に同行して弁護士と相談することや、彼女の話を丁寧に聞きながら助言を続けることしかできない。
○また、ある移住女性は11年前に日本人男性と結婚し、福島県に住む。しかし6年前に夫が亡くなり、2011年の大震災の艱難を母と子でしのぐしかなかった。2014年7月、彼女は緊急入院し、検査の結果、癌であることが判明。しかし彼女は、日本語が十分にできない。そのため私たちは医療通訳を手配し、また彼女の子ども(10歳)の預け先を探すことを、彼女の同国出身者の友人たちにお願いした。8月、摘出手術が無事終わった。だが、彼女はこれから約2年の長期治療が必要であり、その間の子どもの養育など、彼女とその子どもが望む最善の方策を、私たちと彼女の友人たちとで見つけていかなければならない。
○地域社会の復興とセーフティネットの整備が進まないなかで、このような深刻な事例が今後も増えていくであろう。その際、相談者一人一人に即した助言と同行支援などが重要になってくる。

(3)放射能被害の情報提供と相談

○このプログラムは、放射能被害に関して、移住女性にまず正確な情報を提供することによって、地域の日本人住民と外国人居住者との間に生起する情報格差を是正することを目的とする。
○移住女性が、それぞれ居住する地域や学校、職場、とりわけ子どもへの健康被害など、状況を把握できること、そして専門家と相談しながら、的確に判断できることをめざしている。
○福島サロンと白河サロンでは、日本語学習の合間に、日本語サポーターが知り得ている放射能に関する情報を、移住女性に伝えている。その中で、線量が高い地域の工場で働いていたある移住女性は、転職を決意した。
○2014年7月から、EIWANが作成したアンケートによる移住女性に対する調査と、希望者には自宅周辺の放射線計測を始めた。聞き取りアンケートの実施により、移住女性の放射能被害に対する大きな不安、その一方で極度の情報不足という実態を、私たちは改めて知ることになった。その中で私たちは、実際に自宅を訪問し線量を測定することによって線量の高い箇所を示し、生活上の留意点を伝えることができた。
○今後の課題は、聞き取りと訪問測定を丁寧に実施すること、また放射能に関する基本的な情報を、やさしい日本語、または移住女性の母語で伝えることである。
○11月16日、移住女性と地元市民に呼びかけて、振津かつみ医師(兵庫医科大学)を迎えてセミナーを開催した。

(4)ジェンダー問題に関する研修

○このプログラムは、移住女性がジェンダーに関する基礎的知識を得ることによって、家庭の中で夫婦関係、親子関係を良好な状態に保つこと、また人権侵害がある場合は、自分でその状態を認識し、適切な関係機関に相談し、解決する力を身につけることを目的とする。
○ジェンダー問題に関する系統的な研修プログラムを準備すると共に、福島サロンと白河サロンでは日本語学習の合間に、日本語サポーターが学習者(移住女性)から相談を受けて、適切な助言を与えている。
○9月20日、福島サロンで移住女性と地元市民に呼びかけて金香百合さん(HEALホリスティック研究所所長)を囲んで「しあわせナビ」を開催した。

(5)移住女性の子どもに対する教育支援

○移住女性が子どもの教育において最初に戸惑うのは、日本の教育制度や学校文化が母国のそれと大きく異なることである。また移住女性にとっては、「日本語を母語としない子ども」に対する教育支援や、子どもに対する保養プログラムなど、さまざまな支援情報を得ることが困難である。
○このプログラムは、移住女性にさまざまな教育支援情報を伝えること、さらに、移住女性と日本人との国際結婚から生まれた子どもが、ダブルの文化をもつ人間としての自覚と尊厳を育むよう支援していくことを目的とする。

≪進学支援≫
○2014年7月、日本キリスト教協議会(NCC)教育部が全国のキリスト教学校と教会学校に呼びかけて集めた「平和のきずな献金」の中から、ハワクカマイ福島・ハワクカマイ白河・須賀川つばさの子どもで、4月に中学校・高校に入学した子どもたち計9人に対して「進学支援金」を贈った。
○子どもの進学に際しての出費は避けられないが、それが移住女性の不安定な家計をさらに圧迫している様子を私たちは間近に見て、その負担を少しでも軽減したい、と思ったからである。

≪継承語教室≫
○宮城県石巻市と気仙沼市での調査では、アンケートの中で移住女性は、「家族の中で、あなたの国のことば(母語)が普段から使われている」(29%)、「子どもは、あなたの出身国の文化や歴史についてよく知っている」(40%)と回答している一方で、「子どもには、あなたの出身国のことを教えるのが望ましい」と回答した移住女性が82%にも上る。つまり、移住女性の多くが、子ども(そのほとんどがダブルで、日本国籍)に対する、母語=継承語と、母国の文化=継承文化の「教育の場」を強く求めているのである。
○2014年5月31日~6月1日にEIWANが実施した「継承語教育」研修会では、福島県須賀川市にある中国人女性コミュニティ「つばさ」の母子8人が、宮城県仙台市にある韓国語教室と中国語教室を見学し、教師や親たちと交流した。「つばさ―日中ハーフ支援会」は、震災直後、子どもの命と健康を守るために中国人女性たちが作った自助組織で、公民館を借りて月2回、母語=継承語教育を実施している。被災地の須賀川市と仙台市で、継承語教室を自力で運営している移住女性たちが、今回の研修会を通して初めて出会い、教育実践を交流したのである。
○須賀川市の「つばさ」に続いて、2014年1月、いわき市でも中国人女性グループ「福島多文化団体 心ノ橋」が結成され、5月から子どもに対する継承語教室を始めた。ただ教室運営は、わずかの中国人女性と留学生によって担われており、なかなか安定しない。そのためEIWANは、11月から継承語教室の運営を支援することにした。

(6)移住女性とその子どもの保養

○いま福島県に住む家族、とりわけ女性と子どもには「保養」が必要である。実際、さまざまな団体・教会が保養支援に取り組み、実施している。しかし、移住女性にとっては言葉の壁があって、その支援情報にたどりつけず、ほとんどがこれらの保養プログラムを利用できていない。そのため私たちは、移住女性とその子どもたちを対象とする保養プログラムを準備することにした。
○3月30日、春休みを利用して実施したリフレッシュ・プログラム「バスツアーin日光」では、福島サロン・白河サロンのフィリピン人女性、須賀川市の中国人女性とその家族たち、計37人が参加し、日頃のストレスを解消した。移住女性たちにとっては初めての「遠足」であったが、県内の移住女性グループ同士が初めて出会ったことも、大きな成果であった。
○8月19~23日、CO・OP共済連とNCC教育部の支援を受けて、保養プログラムを実施した。参加者は、福島サロンのお母さんと子どもたち9人で、受け入れは京都YWCAがしてくれた。とくに、屋外や川で自由に遊ぶことができない子どもたちにとっては、放射線の影響のない場所で思いっきり遊び、休養することができた。
○11月9日、「バスツアーin仙台」では、白河-福島-仙台へとバスで向かい、工場見学と宮城県美術館のミレー展を鑑賞した。参加者は、白河と福島のフィリピン女性とその家族34人。
○これらの保養プログラムでは、どこでも笑いがはじけ、移住女性にとっては「つかの間の休息」となる。同時に、随行する私たちにとっては、移住女性とその夫、子どもたちとの家族関係を垣間見ることとなり、また、日本語教室ではめったに話すことのない移住女性の不安や愚痴を聞く機会でもあった。そのたびに、移住女性の思いと願いに寄り添うことは、そう容易でないと思わざるをえない。

(7)地元市民と移住女性の協働をめざす関係づくり

○このプログラムは、福島サロンと白河サロンの日本語サポーターを増やしていくこと、さらに地域社会において地元市民と移住女性たちが協働でプロジェクトを推進することができるような関係づくりを目的とする。
○まず、地域の国際化や移住女性が抱える問題に関心を寄せる市民の輪を広げること、そのために出会いの場をさまざまな形で設けることをめざした。

≪日本語サロンでの出会い≫
○これまでは京都や東京、仙台などから日本語教師を福島サロンに派遣してもらっていたが、2014年からは、福島サロン、白河サロンともに、地元市民の日本語サポーターが増え、運営委員と共に教室を運営する態勢が整えられた。
○4月13日、福島サロンの日本語サポーター研修会を開催し、11人が参加した。京都で日本語教室を長年運営している渡辺真理さん(京都にほんごRings代表)から、教室は日本語能力の向上のみならず、日常生活で起こるさまざまなことについてのカウンセリングの場でもあることが強調された。そして実際、地域の日常生活の中で、移住女性(学習者)と地元の日本人女性(日本語サポーター)が隣人として付き合っていくようになったことは、大きな前進である。

≪交流サロン≫
○4月から、地元の女性を講師に招いて交流サロン「セルフジェルネイル」、「カラーコミュニケーション」、「手作りアクセサリー」を開催した。これは、地元市民と移住女性との出会いの場を作ろうというものである。

≪外国人のための防災≫
○京都府で2009年に『外国人のための防災ガイドブック』の企画・編集に携わった「<やさしい日本語>有志の会」代表の花岡正義さんを講師に迎えて、2014年5月11日、「防災と多文化共生――やさしい日本語でつたえよう」というワークショップを白河市で開催した。事前に地元の新聞『福島民報』が取り上げてくれて、その記事を見た市民が多く参加。白河市での支援の輪が広がった。
○9月28日、白河市に続いて福島市でも、花岡さんを講師にワークショップ「やさしい日本語で伝えよう――防災と多文化共生」を開催した。
*「やさしい日本語」とは、普通の日本語よりも簡単で、外国人もわかりやすい日本語のこと。阪神・淡路大震災の時、言語の違いゆえに多くの外国人住民が災害弱者となったことを教訓に考え出されたのが、「やさしい日本語」である。現在では中学校の国語の教科書でも取り上げられ、多言語の一つとして認められている。

≪WOMEN’S CAFÉ≫
○9月7日、同じ地域で暮らす市民同士として、日本人女性と移住女性が互いに知り合い、対話する場をつくろうと「ふくしまフォーラム――WORLD WOMEN’S CAFÉ」を福島市で開催した。第一部は、ドキュメンタリー映画『HAFU』の鑑賞。第二部は「ワールド・カフェ&トーク」と題し、移住女性たちが作った中国・韓国・フィリピン・タイ料理を一緒に食べながら、「学校」「教育」「家族」「やさしい日本語」「若い世代」という5つのテーマに分かれて移住女性が発題し、話し合った。移住女性たちが福島市をはじめ郡山市、須賀川市、白河市、いわき市から駆け付け、参加者は地元市民を含め、第一部と第二部あわせて160人を超えた。
○フォーラムには、地元の福島民友新聞社や福島民報社、福島県国際交流協会、ふくしま連携復興センター、市民メディア・イコール、福島県男女共生センターなど、県内の主要団体が後援し、また地元の学生たち7人がボランティアとして参加してくれた。このフォーラムは、地元市民と移住女性との関係づくりにおいて、大きな第一歩となった。

(8)移住女性「ふくしまMy Story」記録化

○2014年8月から、福島県に住む移住女性たちから聞き取りを始めた。そこでは、移住女性のMy Story、すなわち、母国で生まれ日本に来るまでの経緯、日本での経験、そして2011年3月の地震・津波・原発事故のなかでの苦難、現在直面している問題、そして未来への希望などを語ってもらい、1年かけて『ふくしまMy Story』としてまとめる。
○移住女性からの聞き取りと記録化の編集経費については、藤枝澪子基金から助成金をいただいた。

(9)情報発信

○震災後3年から4年へと、時間の経過と共に忘れ去られていく被災者と被災地という状況に対して、被災者、とくに移住女性とその子どもたちの思いと願いを、日本社会に、そして世界に発信していくことを私たちはめざしている。
○2014年3月11日、『EIWANニュース』を隔月で出すことにし、第1号を発行。現在まで第8号まで出した(毎号4ページ、1,000部発行)。そこでは、福島の移住女性が置かれている状況と彼女たちの思い、支援活動の中から見えてきた課題などを伝えている。ニュースは、献金や助成金を送って私たちの活動を支えてくれている教会・キリスト教学校・団体・個人の他、報道機関、研究機関、県内の関係団体に送付している。ある研究者は、大学のゼミ生のために毎号、10部ずつ購読してくれている。
○2月11日、外キ協のホームページにEIWANのページを設けて、最新情報と活動報告の掲載を始めた。また、『EIWANニュース』の英語版をホームページに順次、掲載している。
http://gaikikyo.jp/shinsai/eiwan/
○3月16日、フェイスブックを活用して、広く県内の移住女性や関係団体にプログラムの告知や報告を始めた。
https://www.facebook.com/eiwanfukushima

(10)活動基盤

≪国内外からの献金と助成金≫
○2013年10月、私たちは2014年の活動計画を立てたが、活動資金の目途がまったく立たなかった。その中で、海外の教会と、日本国内に助成金を申請した。幸いに、NCC-JEDRO(日本キリスト教協議会エキュメニカル震災対策室)、CGMB(アメリカ共同世界宣教)、UCC(カナダ合同教会)から献金が寄せられ、また、日本NPOセンターを通して「JT NPO応援プロジェクト」から助成金が得られた。また9月、韓国のセブランス病院からも献金が届けられた。
○そして、日本の教会・キリスト教学校・団体・個人から献金が寄せられた。たとえば、九州のあるグループホームでは、東日本大震災支援Liveでのカンパと、毎朝、畑で収穫した野菜をビニール袋に詰めて販売した収益金を、3月11日に送金してくれた。

≪事務所の設置≫
○このような熱い励ましを受けて、私たちは活動を進めた。しかし、震災から3年になる福島県の状況は厳しく、一つ一つのプログラムを準備して実行するには、多くの労力と時間を要することになった。
○2014年4月、私たちはJR福島駅の近くに「事務所」兼「活動スペース」を設置した。それは、私たちの活動が1年で終わるものではなく、中長期的な活動拠点がどうしても必要である、と考えたからである。

◆2014年EIWAN活動日誌◆

●1月●
・12日、白河サロン日本語教室
・19日、EIWAN運営会議。そのあと福島サロンの日本語サポーター交流会と新年のつどい(参加者:10人)。白河サロン日本語教室
・23日、外キ協の全国協議会でEIWANの活動報告(東京)
・26日、福島サロンの日本語教室。そのあと「ハワクカマイ福島」の新役員との意見交換会
●2月●
・2日、郡山市国際交流協会主催「日本語ボランティア集中講座」に参加
・15日、第3回東日本大震災国際神学シンポジウムの分科会で佐藤信行が報告(東京)
・16日、藤枝澪子基金の説明会に参加(仙台)
・22日、福島県国際交流協会主催「日本語教室ネットワーク会議」に参加
・23日、福島サロンで日本語教室と「テルミー」開催(12人)。そのあとEIWANケース会議。白河サロン日本語教室
●3月●
・1日、兵庫県芦屋市で開催された「芦屋マダン」で佐藤が講演
・9日、白河サロン日本語教室
・11日、『EIWANニュース』第1号発行
・16日、EIWAN拡大運営会議。そのあと福島サロンの日本語教室。白河サロン日本語教室
・23日、福島サロン日本語教室
・30日、バスツアーin日光(37人)
●4月●
・13日、福島サロンの日本語サポーター研修会(11人)と交流サロン「セルフジェルネイル」(18人)。そのあとEIWANケース会議。白河サロン日本語教室
・27日、白河サロンで日本語教室のあと、交流サロン「セルフジェルネイル」(11人)。福島サロン日本語教室
●5月●
・11日、白河市でワークショップ「やさしい日本語で伝えよう―防災と多文化共生」(12人)
・11日、『EIWANニュース』第2号
・12日、日本NPOセンターのサポートミーティング(福島)
・18日、EIWAN運営会議。そのあと「ハワクカマイ福島3周年イベント」に参加
・23日、日本NPOセンター主催の「東日本大震災支援活動報告会」に参加(東京)
・24日、「ふくしまフォーラム」(9月開催)の準備会(9人)
・25日、福島サロン日本語教室。白河サロン日本語教室
・31日~6月1日、須賀川「つばさ」の継承語教育研修in仙台(11人)
・31日、福島県国際交流協会主催の「母語による学習支援研修会」に参加
●6月●
・3日、神奈川県三浦市で開催された日本バプテスト同盟全国牧師会で佐藤が講演
・7日、仙台市で開催された「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」全国ワークショップで李善姫と佐藤が報告
・9~11日、会津放射能情報センター・日本基督教団東北教区会津地区・日本基督教団部落解放センター主催「全国活動者会議in会津」に参加
・11日、福島県国際交流協会主催「帰国・外国籍児童等関係団体連絡会議」に参加(郡山)
・15日、福島サロン日本語教室
・22日、福島サロンで日本語教室と交流サロン「カラーコミュニケーション」(6人)。そのあとEIWAN拡大運営会議。白河サロン日本語教室
・28日、福岡県北九州市で開催された日本基督教団と在日大韓基督教会の北九州地区の女性会合同研修会で佐藤が講演
・29日、福島サロン日本語教室。白河サロン日本語教室
●7月●
・6日、日本語能力試験、福島サロンと白河サロンから受験。EIWANケース会議
・6~13日、今春中学・高校に進学した移住女性の子どもたち9人に進学支援金を贈る
・11日、『EIWANニュース』第3号
・11日、日本NPOセンター主催「東日本大震災復興支援JT NPO応援プロジェクト中間報告会」に参加し報告(仙台)
・12日、いわき市「心ノ橋」を訪問。子どもたちに対する継承語教室のあと、交流会
・13日、福島市と白河市に住む移住女性を対象に、放射能被害アンケート調査と自宅周辺の放射線計測を始める。福島サロン日本語教室。白河サロン日本語教室
・21日、郡山・いわきのフィリピン女性を訪問
・27日、福島サロン日本語教室。白河サロンでバーベーキュー交流会(21人)
●8月●
・7日、福岡女学院で開催された第25回全国キリスト教学校人権教育セミナーの分科会で佐藤が報告
・19~23日、保養プログラムin京都(9人)
・24日、EIWAN運営会議
のあと、福島サロンで「夏の交流サロン」(27人)
・31日、福島サロン日本語教室
●9月●
・7日、ふくしまフォーラム「World Women’s Café」(169人)
・11日、『EIWANニュース』第4号
・14日、福島市国際交流協会主催の「ゆい・結フェスタ」に参加
・20日、福島サロンで金香百合さんを囲んでセミナー「しあわせナビ」(4人)。そのあと、My Storyプロジェクト実行委員会
・20日、福島県男女共生センター主催の未来館フェスタに参加
・21日、福島サロン日本語教室。白河サロン日本語教室。須賀川「つばさ」のバーベーキュー交流会
・28日、福島サロンで日本語教室とワークショップ「やさしい日本語で伝えよう―防災と多文化共生」(6人)。そのあと、EIWAN運営会議。白河サロン日本語教室
・29日、My Storyプロジェクト実行委員会
●10月●
・8日、外キ協の全国運営委員会でEIWANの活動報告(広島)
・11日、いわき「心ノ橋」を訪問
・12日、白河サロン日本語教室
・19日、福島サロン日本語教室
・20日、白河市教育委員会を訪問
・22日、日本NPOセンター主催「JT NPO応援プロジェクト情報交換会」に参加(仙台)
・23日、日本基督教団東北教区放射能問題支援対策室「いずみ」との意見交換会(仙台)
・26日、福島サロン日本語教室のあと、EIWANケース会議。白河サロン日本語教室
●11月●
・5日、日本NPOセンター主催の合同報告会に参加(東京)
・7日、NCC在日外国人の人権委員会主催の公開セミナーで前田圭子が講演(東京)
・8日、My Storyプロジェクト実行委員会
・9日、バスツアーin仙台(34人)
・11日、『EIWANニュース』第5号
・16日、福島サロンで振津かつみ医師を迎えて「なんどもお話し会」(9人)。そのあと日本語教室。白河サロン日本語教室
・17日、福島サロン日本語教室
・19日、福島サロン日本語教室
・22日、いわき「心ノ橋」を訪問、この日は、地元の日本人や留学生も参加してカンフー茶道会
・30日、白河サロン日本語教室
●12月●
・3日、「ふくしま子ども多文化フォーラム」(2015年4月開催)の準備会(須賀川)
・4日、福島サロン日本語教室
・7日、日本語能力試験、福島サロンと白河サロンから受験。そのあとEIWAN運営会議、2014年度の活動の評価と反省を行ない、2015年度の運営体制などを協議。
・9日、福島で交流サロン
・21日、白河サロンでクリスマスパーティ
・27日、いわき「心ノ橋」を訪問。この日は、大人も参加して書道会

3.2015年の活動計画と運営

○私たちは、福島市と白河市のフィリピン人コミュニティ、須賀川市といわき市の中国人コミュニティと共に活動を展開してきた。とくにこの1年は、多くの地元市民がボランティアとして積極的に参加し、またさまざまな団体の賛同と後援によって各プログラムの実施が可能になった。これらを一過性のものとせず、地域社会の復興、多文化共生の地域づくりに向けて、いま形作られつつある移住女性と地元市民のネットワークをさらに拡充したい。
○地域社会の復興において、移住女性と地元市民が国籍や民族に関わりなく相互に支えあうこと、移住女性が持つ多様な文化的背景を地域社会づくりに活かすこと、すなわち、「共に生き共に生かし合う関係」を構築することが多文化共生の豊かさであり、地域社会の再生である、と私たちは確信するからである。

(1)日本語識字学習の支援

○福島市と白河市の日本語サロンを継続すると共に、移住女性の日本語識字学習をサポートする地元市民の輪を、さらに広げていきたい。

(2)相談と同行支援

○福島に住む移住女性に対する相談活動、同行支援を継続していく。それと共に、多文化相談員の養成プログラムを準備していきたい。

(3)放射能被害に関する情報提供と相談

○移住女性に対する聞き取り調査と、希望者には自宅周辺の計測を継続していきたい。
○2015年から、移住女性とその子どもたちが、専門家による面接と適切な助言を受けられる健康相談会を始めたい。そこには医療通訳を付け、移住女性たちが的確な判断ができるようにしたい。
○国際協力NGOセンター/ADRA Japan/こどもみらい測定所が編集・発行したブックレット『はかる、知る、くらす――子どもたちを放射能から守るために、わたしたちができること』(2014年3月発行)の中の「これから暮らすためのポイント集」のイラストと用語解説を、フィリピン語、中国語、韓国語に多言語化し、その小冊子を広く移住女性に読んでもらうようにしたい。

(4)ジェンダー問題に関する研修

○ジェンダー問題について、移住女性を対象に、またその夫たちを対象に、研修プログラムを準備していきたい。

(5)移住女性の子どもに対する教育支援

○2014年に引き続いて、須賀川「つばさ」、いわき「心ノ橋」、また2015年春に結成された郡山市の「日中文化ふれあいの会 幸福」の継承語教室を支援していきたい。
○2015年4月5日、須賀川市で「子ども多文化フォーラム」を開催した。そこでは、須賀川「つばさ」、いわき「心ノ橋」をはじめ、宮城県と山形県の中国語・韓国語教室に通う子どもたちとその母親たち(移住女性)が一堂に会し、朗読劇や舞踊などの文化発表をすると共に、継承語教育の意義を考えるシンポジウムを行ない、140人が参加した。

(6)移住女性とその子どもの保養

○私たちは2015年も、移住女性とその子どもたちを対象に、短期/長期保養プログラムを実施していきたい。

(7)地元市民と移住女性協働をめざす関係づくり

≪カラフル(多文化)カフェ≫
○被災した地元市民と移住女性たちが語り合い、ともに学び、多文化共生に向けての具体的な提案と実施に向けた道筋を自由に話し合う「カラフル(多文化)カフェ」を、4月から月1回開催したい。これは、2014年に開催した交流サロンと「ふくしまフォーラムWorld Women’s Cafe」の経験と、参加者からの強い要望に基づくプログラムである。
○カフェでは毎回テーマを決め、参加者からのニーズに応じて、そのテーマに関する講師を招く。現在企画しているテーマは、放射能被害、生活再建、仕事、職場の人間関係、家族、ジェンダー、子どもの教育と進路の問題……などである。

≪やさしい日本語による防災ワークショップ≫
○防災や危機回避、とくに外国人住民に配慮した災害・避難情報の発信は、こんにちの日本のほとんどの地域に共通する喫緊の課題であるが、とりわけ福島県においては早急に取り組む必要がある。
○2014年から継続して、「やさしい日本語による防災」をテーマにしたワークショップを福島県内で開催していきたい。

(8)移住女性「ふくしまMy Story」記録化

○「ふくしまMy Story」を冊子として発行し、さらに英訳版も発行したい。
○日本語版は、地域の日本人に広く読んでもらうことによって、移住女性に対する理解を深め、日常的な交流を深める一助となるだろう。また英語版は、これまで語ることも記録されることもなかった福島県のマイノリティ女性の声とライフ・ストーリーを、世界に届けることになるであろう。

(9)ネットワークづくり

○移住女性の中には、原発事故によって避難を余儀なくされた者や、職を失った者、夫の失職によって働かなければならなくなった者など、苦境に立たされた者も少なくない。しかし、このような彼女たちをサポートする行政機関の体制は未整備のままである。
○その中で震災後、移住女性たちの自助組織が福島市、白河市、須賀川市、いわき市、そして郡山市で発足したが、いずれの組織もいまだ小さく、地域社会への発信回路を持たない。
○したがって、移住女性がいま直面している諸課題を解決していくには、福島県内の外国人支援団体や女性団体との連携が不可欠である。
○また、県内に点在する中国人コミュニティ、フィリピン人コミュニティ、韓国人コミュニティなど、小さな各コミュニティをつなぎ、強化していくことも重要である。なぜなら、震災後に作られたこれらのエスニック・コミュニティが、DVや失職、病気などで、地域社会や親族からの支援もなく窮地に立たされている同国出身者を救援する窓口となっているからである。

(10)提言活動

○次年度2016年には、「多文化共生による地域社会の復興」を提言するためのフォーラムを開催したい。このフォーラムは、上記の「防災ワークショップ」や「カラフル・カフェ」での討論、こうした移住女性と地元市民の共同作業の集約として、「多文化共生による地域社会の復興」を提言したい。
○関東圏や関西圏と比べれば、社会的資源が限られている福島県にあって、被災者/地域住民/女性の視点と、グローバルな視点の両方をあわせ持った多文化共生志向の復興政策を提起することが求められている。その提言を共同で作成していく第一歩としたい。

(11)情報発信

○隔月刊のニュース、ホームページ、フェイスブックを継続すると共に、メールマガジンを5月から毎月発信していきたい。

(12)2015年の運営体制

◆運営委員◆
佐藤信行(外キ協派遣委員)/佐川曜子(EIWAN事務局)/水嶋いづみ(福島大学職員)/
土田久美子(日本学術振興会特別研究員・東北大学)/山本知恵(京都YWCA業務執行理事)/
前田圭子(広島YWCA監事)/花岡正義(「やさしい日本語」有志の会代表)/
裘哲一(よりそいホットライン職員)/吉田絢子(日本語教師)
◆協力委員◆
李善姫(東北大学東北アジアセンター専門研究員)/マーサ・メンセンディーク(同志社大学教授)/
振津かつみ(兵庫医科大学遺伝学助教)/三田村潤(会社員)/深見明子(翻訳家)
◇「外キ協」派遣委員◇
佐藤信行(在日韓国人問題研究所<RAIK>所長)/許伯基(在日大韓基督教会牧師)/
中家盾(日本キリスト教会牧師)

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